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東京高等裁判所 昭和28年(う)2315号 判決

控訴人 原審検察官 竹ノ鼻虎之助

被告人 田村秋夫 外一名 弁護人 山根隆二

検察官 大久保重太郎

主文

原判決を破棄する。

本件を原裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、検察官副検事竹ノ鼻虎之助名義及び弁護人山根隆二名義の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。

検察官の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意第一点について

原判決は、犯罪事実として第一の(一)昭和二十五年三月二十三日頃(二)同年六月二十六日頃(三)同年十二月二十九日頃の各窃盗の事実(四)昭和二十六年四月十二日頃及び第二、昭和二十七年八月十日の各窃盗未遂の事実を認定し、更に被告人は昭和二十六年十一月二十六日京都簡易裁判所において窃盗罪により懲役六月の言渡を受け該判決は確定しその刑の執行を受け終つた事実を認定した上、法令の適用において、第一の(一)(二)(三)の各窃盗及び第一の(四)の窃盗未遂の各所為は前記の確定判決があるから、刑法第二百三十五条第二百四十三条第四十五条第四十七条第十条を適用して併合加重を為しその刑期範囲内において懲役六月に、第二の窃盗未遂の所為は前掲の前科があつてこの罪は累犯となるから、同法第二百三十五条第二百四十三条第五十六条第五十七条第十四条を適用して懲役四月に処し、(併せて十月)と記載し、判決主文において被告人を懲役十月に処したことは原判決の記載により明らかである。

確定裁判を経ない数罪は併合罪である(刑法第四十五条前段)が、或る罪につき確定裁判があるときはその罪とその裁判確定前に犯した罪のみが併合罪となることは同法条後段に規定するところである。本件についてみるに、原判示第一の(一)ないし(四)の各罪は前記前科の罪と同法条後段にいう併合罪の関係にあるが、原判示第二の罪はこれと併合罪の関係にはならないのであるから、原判示第一の罪と同第二の罪とは各別に刑を量定した上、主文において二個の刑を言い渡さなければならない。しかるに原判決は、前者につき懲役六月に、後者につき懲役四月に処する旨各別に量刑しながら、これを併せて懲役十月とし、主文において一個の刑として言い渡したのは、右法条の適用解釈を誤つたものといわなければならない。右の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れない。各論旨はいずれも理由がある。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 三宅富士郎 判事 荒川省三)

検察官の控訴趣意

原判決は公訴事実の全部に対し有罪と認定し、被告人を懲役十月に処する旨の判決を言渡したが右判決には後記の如き法令違反がありその違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れないと信ずる。即ち原判決は刑法第四十五条の適用を誤つたものである。原判決は被告人が昭和二十六年十一月二十六日京都簡易裁判所において窃盗罪により懲役六月の言渡を受け同年十二月十三日確定し京都刑務所に服役したことを認定しながら検察官起訴にかかる第一乃至第五の事実全部に対し刑法第四十五条前段の併合罪の規定を適用し一個の主文を以て懲役十月に処しているのであるが右確定判決が右第四と第五の事実の中間に存在するので右第一乃至第四の事実と右確定判決の事実とは併合罪の関係にあるも第五の事実と右第一乃至第四の事実の間にはこの関係なく従つてこれを同条後段を適用しその言渡刑は一個でなく二個とならなければならないのに全部を併合罪と認定し一個の主文のみの言渡をした原判決は明らかに失当であるから破棄を求め適正なる判決を期待し控訴に及んだ次第である。

弁護人の控訴趣意

第一、原判決は判決書に明白な通り主文に於て懲役拾月の有罪判決を言渡してゐるがその理由中の法律の適用に於ては判示第一の(一)(二)(三)(四)の窃盗及同未遂の行為に対して刑法第二百三十五条、第二百四十三条、第四十五条、第十条を適用して懲役六月に処し第二の窃盗未遂の行為に対して刑法第二百三十五条、第二百四十三条、第五十六条、第五十七条、第十四条を適用し懲役四月に処す(併せて懲役拾月)と明示してゐるので主文と理由と一致してゐない。蓋し原審が刑法第四十五条を適用処断する以上而して被告人が昭和廿六年十一月廿六日京都簡易裁判所に於て窃盗罪に依り懲役六月に処せられ確定してゐる以上此の確定判決を境としてその前の第一の犯罪事実とその後の第二の犯罪事実とは別個に二個の主文として判決を言渡さなければならないことは当然である。然るに原判決は之をしないで一の主文として言渡してゐるのは刑法第四十五条の解釈を誤つたもので法律の適用に誤があつたことに帰しその誤は判決自体に影響を及ぼすことは明白である。尚原審に於ては懲役拾月と宣告し理由の明白な朗読なく第一の事実には懲役六月第二の事実には懲役四月併せて拾月となつてゐることは判決書作成後之を閲覧するに及んで知つたものであるが単純なる誤記とかいふものでなく又実質的に被告人に不利益な判決でないにしても適法なる判決ではない。要之原判決は破毀を免れざるものと解する。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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